CBI Forecast ― 2011年7月7日:PDF

新しい視点

CBI学会との関係
私は、昨年の9月17日、CBI学会の年会が終わった直後に開催された総会で、CBI学会の事務局を含む活動を後継の方々に引き継いでもらいたいという希望を出して、了承された。その後、具体的な引継ぎ作業の会合を重ね、最終的には3月末に、具体的な移管の話し合いが行われた。その決定を受けて、4月以後は、CBI学会の運営(意思決定)に関わることなく、1990年代の中頃から使っていた用賀の事務所を閉鎖する残務整理のみに専念していた。幸いこの仕事が、予定より早い6月6日に終わったので、6月8日に、その旨を田中博(新)会長に報告するとともに、事務局担当理事を辞させていただいた。

この時点で、私はいずれCBI学会の皆さんに、挨拶文を書くから、メールで配信して欲しいとお願いしてあったが、それを果さないうちに、「特別顧問」という立場から、この情報を発信することになってしまった。この点に関し、多少の釈明と説明をさせていただきたい。

 私が、どのような考えでCBI学会の運営に関わり、どのような考えでそれを後継者に引き継いでいただくことにしたかについては、公式、非公式の会合時の資料を含め、すべて文書になっている。それらは(一部は関係者のみであったが)すでに配布されたものである。したがって、退任の挨拶と言っても、言いたいことがとくに残っているわけではない。ただ、自分の役割と考えていたことで、果たしていないことが、いくつか残っている。

その第1は、1981-2010年の30年間の膨大な会の活動とその記録類の整理に関わることである。これについては、CBI学会が前身のCBI研究会から名称を変更した2000年に開催された最初の年次大会の予稿集に、「CBI 20年のあゆみ」と題する報告を書いているが、同じように2000-2010年の10年間の記録をまとめておかねばならないと考えている。とくに、表に出ない事務局の活動の記録は、私しか整理できないので、その間にお世話になった方々のことは、記録しておく義務があると考えている。

 第2は、CBI学会のウエブサイトの更新である。これについては、必要最小限の部分は、昨年度の後半に実行できているが、旧サイトに置いてあったコンテンツの一部は、移設が終わらないままになっていた。現在、これらについては、“CBI Archive”というサイトにまとめているが、まだ整理がつかず、未公開になっている。

このような記録類の整理と回想的な報告文を作成し、それをウエブに掲載する仕事には、かなりの時間がとられるように思われる。ただ、相当以前から、CBI学会の活動記録の多くは、ウエブに置くことが実行されているので、CBI Archiveは、それとは相補的なものであり、この残務整理の仕事は、私の個人的な関心事としての「仕事」でしかないとも言える。したがってこの整理の仕事は、この情報配信(CBI Forecast)の仕事とは、別な活動と考えている。

前後際断
このように、CBI学会の運営組織と私の関係は、先の6月8日をもって終わったことになる。これからは「特別顧問」と「一会員」として関わることになった。その「特別顧問」としてどのような役を果すべきか、経験がないのでまだ戸惑っている。ひとつのヒントは、CBI学会の新体制と題する文章の図1である(http://cbi-society.org/home/documents/cbinews/CBInews2011-2_3.html)。その図では、名誉会員の下に、特別顧問という枠がある。普通ある組織の顧問というと、何か助言役のような閑職を意味するが、この図の特別顧問は、運営の責任者たちの助言役ではなく、名誉会員と同じよう位置づけになっている。つまり、責任は負わなくてよい、という配慮であり、その上で「相談されたら、何か有益なことを言えばよい」、という役柄のようにうかがえる。私は、最初の定年後に、CBI学会との関係を考えた時、CBI学会とは生涯現役的関わりたいが、その理想は、「神沼という奴がいたら面白いが、居なくても困らない、という存在になることだ」、と考えていたし、そのように公言もしていた。ありがたいことに、いまやそれに近い存在になれた。新体制の責任者の方々は、堅苦しいことが嫌いな私に、いろいろと気を使ってくださったようだ。

 さて、私としても望んでいた境遇であるが、現実にその立場になってみると、こうした立場で一体何ができるのか、CBI学会にどう対処すべきか、明瞭には見えていなかった。なにしろ30年目にして始めての経験であるので、正直、戸惑っていたのだが、用賀事務所の閉鎖に専念しているうちに、なんとなく、「前後際断」という言葉が浮かんできた。この言葉は、座禅の指導者として有名な道元が、禅の修行者のために書いた「正法眼蔵」という書の一節の中の、以下のような文章に出てくる(一部を読みやすく漢字に変えた):

「・・・薪(たきぎ)は灰となる、さらに返りて薪となるべきにあらず。しかあるを、灰はのち(後)、薪は先と見取(みとり)すべからず、知るべし、薪は薪の法位に住して、先あり後あり、前後ありといえども、前後際断せり。灰は灰の法位にありて、後あり先あり、かの薪は、灰となりぬる後、さらには薪とならざるがごとく、人の 死ぬるのち生とならず、しかあるを、生の死になるとは 言わざるは、仏法のさだまれるならひなり、・・・」

この文章は、禅に関心のある人たちの間では、有名な一節であるらしい。私は別に、禅に関心があるわけでないが、道元という人には、いくらかの関心があった。それは、多少年長でありながら、弟子として長年親しく接していた懐奘という人の書いた、「正法眼蔵随聞記(岩波文庫本)」を、大学の頃から時々、読んでいたからだ。それが縁で、後に、安谷白雲が注釈した「正法眼蔵参究」の全巻を買い、一部を拾い読みして、「調子のいい文章を書く人だ」と感心した記憶がある。それがひょっこりと、思い出されたのだ。

 私にとって、それがどういう意味かと言えば、「これまで30年間、CBI学会に関わってきた私という人間が、今度から特別顧問に役割が変わった」、ということではない、ということである。CBI学会の運営に関与してきた過去の私と、現在の私とは「前後際断」しているのだ。つまり現在の私は、「過去の私とは関係ない立場で、CBI学会に関わる」ということである。同様に、CBI学会という組織も、その事務局組織も、「前後際断」している。私にお構いなくことを進めてくださったらよい、という意味だ。

 このことに関して、もうひとつ思い出したことがある。それは、「CBI学会はなぜ30年続いてきたか?」という舞台裏だ。経営の立場で言えば、それは、「最初の設立が難産だったので、とりあえず2年間活動し、2年経ったところで会を続けるという積極的な意思表示をしなければ、会は自動的に解散する」、という自爆装置が付いていたからではないか、と考えている。こういうことだったから、CBI学会の活動は、いつも2年ぐらいで、存続を含めて見直すことにしていた。それにCBI学会の活動は、計算機や情報通信技術と、生物医学という、2つの猛烈に進歩している科学技術に基盤を置いている。いまや2年と言わず、半年あるいは数ヶ月単位で経営(運営)を見直さなければ、人が集まってこない活動になってしまっても、不思議ではない。こうした経営が厳しい状態は、活動を開始した1980年代からずっと続いていた。

 いや、状況は昔よりもっと厳しいものになってきているようだ。事務所の片付では、嫌でも過去の文書類を見ることになる。そこで改めて感じたのは、CBI学会が離陸した1980年代は、日本経済が絶頂であった時期だということである。それから20年、日本は坂道を転がり落ちるように、衰退しつつある。だから、私でも最初は何とか、世話役をやってこられたのかもしれない。しかし、いまや状況は、劇的に変わってしまっている。

 過去に囚われ、固執する限り、組織が衰退することは、CBI学会だけでなく、おそらく他の学会についても言えるし、会社についても言えるだろう。新体制を担ってくださっている賢明な方々は、それを十分ご存知だと思う。繰り返すが、私がこれまで何を考え、何をしてきたかということに囚われる必要はまったくなく、思い切って自分たちの考えでことをなしていただくのがよいのだ。同じように私も、過去の私に囚われることなく、新しく発想し、新しい行動目標を立て、その中で、特別顧問としての役割を果していくのがよい、と考えた。

作業仮説
このようにCBI学会との関わりがはっきりしてきたので、具体的な行動目標として、CBI Forecastと称する情報発信を、次のような方法で、実行してみようと思いついた。

(1)CBI Forecastは、学問領域としてのCBIつまりChem-Bio Informaticsと、CBI学会の活動の双方に関係するNews(情報)とVision(すなわち見解、あるいは洞察、考察、構想など)を提供する、
(2)この情報発信は、CBI学会のそれではなく、私の管理下にあるサイバー絆研究所が借りているサーバーによって行う、
(3)私の発信する情報は、公開を原則としており、閲覧はCBI学会関係者に限定しなせず、また、その内容に興味をもって下さった方からの連絡は、誰でも受け付ける、
(4)情報発信の頻度は、ほぼ隔週あるいは月に2回程度を予定している、

以上は、情報発信の形式だが、主題としては、

(1)研究領域としてのCBI(Chem-Bio Informatics)の発展、
(2)CBIを専門とする研究者とくに若手の職の機会の拡大、
(3)その他、CBI学会の会員増につながる話題や具体的な行動、

を取り上げるつもりである。

評価
この仕事がうまくできるかどうか自信はないが、まずは始めてみて、閲覧者とくにCBI学会の関係者からの意見をいただくことで、次を考えることにしている。私が新しい役を効果的に果しているか、そうでないかは、これによってわかるのではないか、と期待している。

サイバー絆研究所について
ここで、CBI Forecastを置いているサイトを管理している組織について、簡単に説明しておきたい。CBI学会の仕事を後継者にお願いすることを申し出た(昨年9月の総会の)時、私自身が新しい非営利組織を設立する計画があることは、その時配布した文書に記している。この組織の名称は、ながい間「サイバーアカデミアCyberAcacdemia」と称していたが、実際に設立を考えることになった段階で、似た名称が商標登録されていることを知り、サイバー絆研究所Institute for Cyber Associates(略称ICA)という、新しい名前をつけることにした。
この組織の設立が、一部の関係者に誤解を生じたようだが、私の考えでは、新組織ICAは、CBI学会とは相補的な関係にこそあるが、利益相反的な関係にはない。ICAは、これまで私が手掛けながら果せなかった目標をいくつか掲げている。そこには、学問としてのCBIとCBI学会の現状との相克を乗り越えたという願いもある。
この間の事情を説明しているICAのサイト(http://join-ica.org/ica/partners/for-cbi.html)は、そのまま、この情報発信の主題の一つである、「研究領域としてのCBIの発展」に関する考察ともなっている。これによって、CBI Forecastの実質的な最初の問題提起とさせていただきたい(2011年7月7日、記事の執筆日と配信日が若干ずれることがある)。